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トラック1とトラック2の間の出来事。

復讐のためにヒロインを誘拐し、犯す朝陽。
しかしヒロインの意外な反応の数々に、心が乱されて……。

「終末の密室」SS

「呪いの言葉」著・雪華


 橘朝陽は、快楽に溺れたことがなかった。「綺麗すぎて恐い」と言われるほどの美貌には男女問わず人が群がってきたから、常に入れ食い状態。雨のように与えられる感覚を、むしろ煩わしいと思うことさえあった。朝陽にとって、セックスは金になる手段でしかなかったのだ。
 それがどうしたことか……数時間前から、朝陽の頭には「犯す」の二文字しかない。柔らかな体を組み敷き、腰を突きあげる度に、その獣じみた欲望は強くなる。
「んっ、く……、あ……ぐ」
 苦しげな声に、少しだけ頭の中の霧が晴れる。ぼんやりした目を瞬かせれば、朝陽が誘拐した女――復讐の道具が、もがくように首を反らした。白く滑らかなそこに、汗が伝う。
 そのまま床に落とすのがもったいなく感じて、べろりと舐めとる。いつもの潔癖症はどこへいったのか、耳の裏まで味わった。
 瞬間、濃厚な蜜のような匂いが鼻腔を抜け、朝陽の脳髄を蕩かせる。
「くそ、なんだよ、これ。……はぁ、めちゃくちゃ、いい……」
 彼女の汗の匂い。精液に混じった、破瓜の血の匂い。普段は臭いとしか感じないであろうそれらが、たまらなく『良い』のだ。
 酩酊しているような不思議な感覚の中、朝陽は愛液まみれの結合部をなぞった。
 朝陽のものでみっちりと広がっている彼女の膣口は、赤く充血し、ひくひくと痙攣している。
 張りだしたカリ首で膣壁を引っ掻くようにして、ギリギリまで抜くと、一回目に注いだ精液がゴポリと零れた。
 破瓜の証と混ざって薄紅色になったものを、指先ですくう。
 ふわりと漂う血の匂いは、やはり朝陽を興奮させた。
 血に興奮する趣味は、なかったはずなのに――彼女のものだけが、特別に感じる。
 くん、と鼻を鳴らした途端、腰まわりから悪寒めいた感覚が広がる。足先から一気に鳥肌が立ち、射精感が高まった。
 張りつめた亀頭を子宮口に押し当てれば、ちゅぅっと誘うように吸いつかれる。たまらない心地よさに、朝陽は呻いた。
「っ、ぐ! はぁ、あっ……! で、る! 出す、ぞっ!」
 宣言した朝陽は、弱々しく首を振る彼女を、力いっぱい抱きしめる。容赦なく腰を打ちつけ、先端を子宮口に密着させた状態で射精した。
 びくん、と彼女の体が強張る。
 朝陽は達しながら、なおも体を揺さぶり、一滴残らず注ぎこむ。
 名残惜しいような気分で中をゆっくりかき混ぜると、ぐち、ぬち、と淫靡な水音がたった。
「はぁ、はぁー……、っ」
 ねちっこく腰を回していた朝陽は、ずきりとした腕の痛みに顔をしかめる。興奮しすぎたせいか、傷が開いたらしい。犯す前、彼女が抵抗してつけた傷だ。
 腕から流れ出た血が、彼女の頬に垂れる。
 それを見た瞬間、なぜか朝陽は恐怖に近い感情をおぼえた。風邪をひいた時のように寒気がする。犯す前は傷を舐めさせることすらしたのに、酷く汚いものを彼女にかけてしまったような気がした。
 復讐の興奮で、感覚がおかしくなっているのだろうか――。
 朝陽が混乱して動けずにいると、ふいに彼女が……ぴちゃりと音を立て、傷口を舐めた。
「……なにをしているんだ?」
「え、……あ、あの、さっきは舐めろと言われたので、今度もそうするべきなのかと……」
 傷口を舐めさせたのは、屈辱を与えたかったからだ。やや潔癖症気味な朝陽は、普段だったら絶対にさせない。
 だが不思議なことに、彼女に舐められるのは嫌ではなかった。むしろ、妙に安心する。
 ぼんやり舐められるままになっていると、彼女がじっと見つめてきた。
「君は時折、妙な顔をするな」
「貴方こそ、変な顔をしますね」
「は?」
 勇気があるわけでもないだろうに、彼女はたまに意外な言葉を返してくる。
 朝陽が驚いて二の句を継げずにいると、彼女は少し迷う素振りを見せてから、ぼそりと言った。
「まるで貴方のほうが、壊されていっているみたい」
 弱い、と言われた気がして、朝陽の頭に血がのぼる。
 彼女の細い手首を握り、噛みつくように叫んだ。
「っ、君に何がわかる!?」
 彼女はびくりと怯えたが、それでも朝陽から目をそらさず、まっすぐに見つめ続ける。
「……何も。私がわかるのは、ただ貴方が酷く綺麗な人だということだけ」
 朝陽は珍しく、ぽかんと口を開けたまま固まった。どんな顔をすればいいのかわからず、眉を顰めながら問いかけた。
「君を犯す誘拐犯を、綺麗だと言うのか? ……ああ、そうか、恐怖心で頭がおかしくなっているんだな」
「そうですね、すごく恐い。混乱しておかしくなっているのかもしれない。でも……私は『醜い』『ゴミ』と母に言われて育ったので、貴方みたいに綺麗な人は……羨ましいと感じてしまうんです」
「君が醜いだって?」
(こんな可愛いご令嬢が?)
 酷い謙遜だ。そう朝陽は思ったが、問われた彼女の瞳は暗く沈んでいく。
 本気なのだと察した時、切なさとも悲しさともいえない複雑な感情が、胸中に漂った。
 復讐の道具として、彼女を憎むべきだと思っているのに――今聞いた言葉が納得できない。
 朝陽は何度も唾を飲み、場違いなことを言ってしまいそうな自分を諌めた。
 それなのに、やはりどうしても我慢できなくて……。
「……君は、可愛い」
「え」
 言った瞬間、何かに負けてしまった気がした。死守すべきだったものが、音を立てて崩れていくような……嫌な感覚。
 その余韻はしばらくの間続き、まるで呪いのように――朝陽の心臓を縛りつけた。
 驚いたような彼女の表情を見て、朝陽もまたハッとする。動揺を隠すため、掌で彼女の両目を覆った。
「な、なんでもない」
「そ、そうですよね」
 双方共に慌てた声が出た。
 微妙な雰囲気に耐えられず、朝陽はわざと冷たく言い放った。
「少し休んだら、また犯す。覚悟してろ」
「……はい」
「……」
 頑張って嗜虐的な物言いをしてみたものの、もう彼女を乱暴に扱う気にはなれなかった。そんな自分に、朝陽は落胆する。もう一度復讐心を燃やすために、今度はしっかりとした声音で再確認した。
「俺は絶対に、君を使って復讐してやる。これは覆らない」
 そう気持ちをこめて言った直後だというのに、朝陽の胸中には不安がたちこめる。

 この計画は既に破綻しているのだと――肌で感じていた。